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映画 『土を喰らう十二ヶ月』

数年前に、水上勉の「土を喰らう日々 ーわが精進料理十二ヶ月ー」を読んでいた。
軽井沢の別荘に仕事場をもち、庭先で畑仕事に精を出す作家の料理エッセイ。多分、富士見高原の大好きな古書店mountain bookcaseで見つけた文庫本だったと思う。

読んだ時は、禅寺や精進料理、独居して食を楽しむ良くあるこだわり男の趣味の料理の話程度にしか感じなかったのだけども。何しろ水上勉のほかの作品は読んでいないからね。
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映画「キネマの神様」で志村けんさんの急死の後を引き継いで、その後に良い演技に感動した沢田研二。ジュリーが今回の作家の役。
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エッセイは、軽井沢の別荘が舞台だけど、映画では妻を亡くし、妻の実家の安曇野あたりに隠遁する作家という役になっていて、そこに通う美人編集者役の松たか子や、義母役に奈良岡朋子、壇ふみさんや火野正平がまわりを固めてました。

多分ね。
原作を読まずして観ていたら、さらっと美しい風景と土井善晴先生が監修した料理の映像の素晴らしさだけで終わっていたと思うのです。

禅寺での少年期の修行や、挿入される古事の引用や、道元和尚の導きの言葉も映像だけだと流れていったと思うの。原作の主題は日本の食の荒廃を嘆き、道元の典座教訓と精進料理の数々。

原作を映像で観て、
ここ数年、自分が黙々と土を耕して、まさに土を喰らうような真似事をしていたこともあってか、染み入る美味しさを感じるシーンが数々あって。
オープニングの真っ白に粉を吹いた干し柿にお抹茶は、思わず笑ってしまったほど。

良く、家庭菜園で野菜を育てているのと言うと
「採れたては美味しいよね。自分で作ったらなおさらでしょ?」と言われるのだけど、きっとこの主人公のように、それだけじゃないと思う。近所のプロの農家さんの採れたて野菜には到底、味は太刀打ちできないうちの畑の野菜たちだから。
美味しいは野菜のその味よりも、あの土の味だったかと気がついたりもしたのでした。土の味のことをうまく表現する術がないのがもどかしいけど。

話はズレるけど、
先月読んだ女性の社会進出と現代の台所事情の料理論、阿古真理さんの「料理は女の義務ですか」いう本。ここには現代女性たちが抱える家庭料理の辛さがひしひしと描かれて、それを打破するヒントを作家は模索していたのだけどね。それについての響く答えは本のどこにも見つけられなかったの。
日本人は、世界でいちばん、家事や料理を楽しいと思えないんですって。
メキシコで家族総出でDIYにペンキ塗りや、タコスつくり、家の修繕を楽しんでいたのが羨ましい光景でした。暮らしを楽しむ文化が育っていないんだわね、日本は。

今回、映画を観て、もう一度、原作を読み直して料理論についても思う。
一部原作から抜粋。

道元さんという方はユニークな人だと思う。(途中略)
ここで一日に三回あるいは二回はどうしても喰わねばならぬ厄介なぼくらのこの行事、つまり喰うことについての調理の時間は、じつはその人の全生活がかかっている一大事だと言われている気がする。(略) しかし、そう思う時は、食事というものを、人にあずけた時に発してないか。つまり、人につくってもらい、人にさしだしてもらう食事になれてきたために、心をつくしてつくる時間に内面におきる大事の思想について無縁となった気配が濃いのである。滑稽なことながら、ぼくらは、故郷の過疎地に老父母を置いて、都会の巷で、「おふくろの味」なる料理を買って生きるのである。

禅寺に預けられ、少年期に精進料理を叩き揉まれた作者は、食べることが生きることの根源の姿勢をこんな風に語っている。

八ヶ岳の山の家のそばに長野県原村というところがあって、ちょうど地元の新聞が、料理研究家の藤井惠さんが原村に越してきたと報じていて。藤井惠さんは、昨今はパパッとできる時短ばかりが料理の大事とされているようすに、ちょっと立ち止まって時間をかけた料理に目を向けたいというような記事があったの。
映画はきっと働き盛りの忙しい人には、料理を作る時間の大事さや楽しさがなかなかわからないと思うの。辛いだけよね。

土井善晴先生の一汁一菜の教えも相まって、食への私のこだわりかたも歳とともに変わってきている気がする。映像には、土井先生の美味しい料理もいっぱい。
当たり前だけど、精進料理だから、出汁は昆布。鰹出汁の関東に生まれ育った私には、いつも昆布だしの料理は敷居が高く感じるんだけどね。

食材が良ければ、野菜はそのまま食べれば良いんだわね。
そして、手に取った素材を心して料理して、我が身の糧のすることは、自分の生業を、生きる道を深めることにも通じると、道元の典座教訓によると知ることとなったのでした。
大人の食育とか言われて久しいけど、生きる根源にある食生活とどれほど真摯に向き合えるかなと自分に問うた映画とエッセイでした。

【追伸】
ジュリーのちょっとぶきっちょそうな緩慢な身の動きと、肉づきよい恰幅さ、手指のシーンも代役がなくご本人だとしたらその爪に入った白いヒビまでがいい感じでした。
使われている器もとても良くて、立派な伊万里に白菜の漬物が乗ったり、高台の盃や、山椒の擂り粉木とかも良くてね。
ただちょっと新品のアウトドア用品や長靴、ピカピカのお鍋や木の樽の調理器具が時に気になりもしたけど。←使い込まれた感がなくて。

そして、エンディングテーマのジュリーの新曲はとても素敵でした。



Commented by daikatoti at 2022-12-11 20:09
今日の記事読ましていただいてね、家庭料理の辛さを抱えてる現代女性、ってのが一番心にピンと来たんだけど、
この前ね、やっぱり料理が嫌で嫌で仕方がないという若い人の声を聞いてね、ああ、自分もそんな時期があったなと思った。
あの辛さって、なにか家庭料理ってのはこうしなきゃいけないという枠みたいなのがあって、例えば品数は多くなきゃとか、必ず野菜を、だとか、何かしら自分が自分に課した枠組みに苦しめられて料理するのが嫌になってしまって結果出来合いの余り栄養も添加物的にも良くないものを食卓に並べることになってる、というのが残念でね。スーパーの惣菜売り場の充実ぶりをみると多分そういうことになってるんでしょう。野菜まで切ってある。

料理ってのはほんとは楽しいはずなのに、おかしな縛りに縛られているのが残念よ。
人は食べるもので出来ていると言われるからね。
この辺で考え直した方がいいと思う。
いい映画が出てよかったわ。土井さんの料理写真すごく素敵。

それとね、昔は女でも働くべきだって思ってたけど、果たしてほんとにそれがいいのか、って問題もあると思うのよね。これが大きな問題だと思う。
Commented by yukkescrap at 2022-12-12 08:49
> daikatotiさん

食べることって1日も休めませんものね。
女性が、男性がというジェンダーのプレッシャーよりも、誰もが自分の食べるものへの関心を深めてくれたら良いのにね。
人間の本能を無くしちゃいそうでね。

いつもまさに同窓生の気分でお伺いしてます。これからもゆる〜くよろしくお繋がりくださいね。
by yukkescrap | 2022-12-10 20:53 | シネマスクラップ | Comments(2)

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