
昨年から八ヶ岳の山の家で過ごす時間がグッと増えて、自然との関わりで感じることに変化があるのです。
「自然の中で暮らすのは良いでしょ?」と言われますが、これは多分、
空気がきれい、緑の森林浴の効果や癒し、水のおいしさや、自然が作り出す植物の美しさや野鳥の可愛らしさ、採れたてのお野菜の美味しさ、アウトドア遊びの楽しさあたりなのじゃないかな。自分自身も、そんなことが自然との付き合いと思っていたフシもあるのです。
自然の中でぼぉーっとしたい。漠然と。
昨年の冬、近所の放置された森の大藪払いをして、土に触れる機会がぐっと増えました。見えていなかったものが次々と出てきて、里山の生態系に気づかされることがたくさんあったのです。五感で感じる生態系の巡りや連鎖について。
加えて、夫と初めた家庭菜園は、森を切り拓いて土づくりからの体験。
武蔵野市の農業塾の家庭菜園の土とは格段も違うのになりました。
石ころゴロゴロ、農薬も使わず、肥料はなしで森の有機物だけ。なのに虫もほぼつかずに実りをたくさんつけて。ビギナーズラッキーかな?森の土ってこんなに良いんだぁとも思ったけど、ワイルドすぎる環境で虫食いのないほうれん草や小松菜が収穫できたことにもびっくりでした。都心と違ってここは虫だらけの森の中ですからね。
なぜなのか? 森には、畑の虫を喰う天敵(野鳥もそのひとつ)がたくさんいて、濃い自然の生態系が深く機能しているということに今更気がついたのです。
そして、バラの栽培について勉強し始めたら…。
肥料が山ほど必要で消毒も頻繁に!森の中なら尚更ですね!と言われて躊躇うことに。
オーガニックとか自然栽培とかいうと、なんかもうこだわりすぎて宗教的だよね、そこまでしなくても化成肥料やホームセンターの消毒スプレーでじゅうぶん収穫も花つきもよく楽しめるじゃないの。ちょっと前まではそんな風にも感じていたのです。
そんな折、無農薬、無肥料でバラの栽培に取り組んでいる人や、菌ちゃん先生を知り、土づくりも耕さず、腐葉土を漉き込まず、石灰もまかず、肥料も与えず植物を育てる人が、たくさん近隣にいる事も知りました。
八ヶ岳南麓に新しく入植する農家さんはほぼ有機農法というのも驚きます。
そしてそういう情報が入ってくると、次にこういう本も紹介されて。
かなりとっつきにくい、ちょっと学術書みたいな本ですが、ぐんぐん引き込まれて今自分が感じている事が理路整然と語られていてびっくりだったのです。
作者は、地質学者の夫と、環境計画を専門とする生物学者の夫婦の共著。
主題の微生物の専門家でも医師でもない2人が、家を買い長年放置された荒れた庭の土壌改良というプロセスと、妻の癌の発覚というごく個人的な体験からスタートしています。
庭に一切の化学肥料は施さず耕さず、ただ有機物を大量に投入して予想以上の大成功をあげ、自身の健康と食生活の改善の中で、「微生物」の存在に深くハマっていきます。
学者さんのお二人なので、実験や多分野の知見も紐解きながら物語に仕立ててあるのもすごい面白かったです。
自然って良いよね?
という奥には、見えないけどこういう生態系の深さに支えられていることに、そしてそこに身を置いて生きていることに改めて気づき、森で暮らす幸福感を感じたりしています。
漠然と感じていたことが、つまびらかになった本でした。
本の帯の「本当の半沢直樹は地方の片隅にいる。やがて彼らが日本を変えるだろう。」というすごいキャッチのこれまたベストセラー本。
道法正徳さんという元農協職員さんが左遷されても左遷されても、組織に物申し続け独自の無肥料で収穫量を倍増するような果樹栽培の方法を樹立して広めている活動に密着しながら、この道法スタイルに取り組む人たちを取材したルポです。
奇跡のりんごのような木村さんみたいな農家さんは、そうそう簡単に生まれてこないよね、ああなるまで10年以上死のうかと思うほどに苦労した農家さん。
でもできるんじゃないか?という挑戦の話がいっぱい。
本の裏の帯には、
道法農法。
世界を席巻中!肥料も農薬もいらん、地球を汚さず儲かる農業じゃ!
はぁ…。(にわかに信じがたい)
とあるの。
これもね、読み終えるまで、嘘っぽいなぁ、カルトっぽくないかぁ?なんて疑いながら読んだんですが。
でも良かったわぁ、今年植えた果樹の選定をする前に読めて!と腑に落ちることが山ほどありました。試してみよう。
この一年で私の自然との関わりかたや、身の置きかた、感じかたはずいぶん違ってきた気がします。都会に暮らし、ときどき自然のいいとこ取りをしていた今までとは明らかに違う。この自然の中にすんなりとけこめる心地よさを身体も頭も心も実感しているこの頃です。そしていつのまにか自分がその一部になっている。
いつかわたしの屍(しかばね)もこの地の有機物の1つになって朽ちてくれたらと思ったりもしているの。